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乾坤一擲のブルックナー


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ブルックナーの交響曲第9番、
指揮は1923年生まれ、86歳を越えるマエストロ、
スクロバチェフスキー。
第1楽章、第2楽章が、7〜8年前、最後の来日コンサートとなった、
ブルックナー振りのマエストロ、ギュンター・ヴァント以来の名演。
特に第1楽章は、乾坤一擲の演奏、ヴァントを上回るかもしれい、
少なくとも、現時点でこれを超える演奏はどこにもない超名演。
第1楽章が終わったあとの緊張感には演奏にかける凄まじい気合いがあった。
聴衆は咳どころか息継ぎができないほどの状態。
第2楽章は、最初、管と弦のアンサンブルが乱れるところがあったが、
テンポを落とすことなく一気に突き進む気迫のタクトに圧倒。
まるで宇宙爆発、ビッグ・バンのような推進力。
とても80歳を過ぎた指揮者のものではない。
第3楽章は金管のコク、木管の寂寥感がないので
天国的な彼岸の響きまでは到達できなかったが、
弦が必死で頑張り、集中力の高い演奏だった。
アダージォの終楽章が終わってもすぐに拍手はなかった。
静かに曲が終わり、静寂の中、
指揮者が手を下ろしたあとに拍手とブラボーの嵐、
よい演奏の後はこうあってほしいものだ。

9番に先立って演奏された、
ベートーヴェンのピアノ・コンチェルト第4番も、
久々に来日したアンドレ・ワッツが煌めくような粒だちの音で弾き切った。
ビアノはヤマハ。スタインウェイとは違うキラキラしたブリリアントで
響きの豊かな音、一昔前の巨匠たちの音だ。
なるほど、こういう音でベートーヴェンを弾きたかったのか、
このピアノの選択は実によかった。
ワッツは30年生まれ以上前に聴いたが、
その頃はただピアノがうまいだけのピアニストだった気がする。
長い歳月をかけて風格が備わり、
グランド・マナーのピアニストとなって再登場した。
CDでしか聞けなかった、ホルヘ・ボレの晩年の演奏を思い出した。
ボレも好んで深い響きの古いピアノをよく弾いていた。
ワッツの演奏は、イメージするベートーヴェンとは異なったが、
誠実な人柄が演奏に現れていて、音楽への謙虚な姿勢に好感がもてた。
第2楽章のピアノの独白には、ただただ聞き惚れた。
オーケストラの伴奏も深く重厚で申し分なし。
なにより4番の選曲が相応しかった。
今日のコンサートは録音していたので、いずれCDが発売されるだろう。
終演後、運よく楽屋でマエストロからサインをいただけた。
来年3月には、ブルックナーの最高傑作8番を振るという、
これが、今日のオーケストラと最後のコンサートになる。
その頃まで、スクロバチェフスキーは、元気でいるだろうか、
80過ぎのマエストロから、
剛毅で真摯な魂のありよう、カタチの無いものの尊さを改めて感じた。
第1楽章が終わり、響きが空間に消え入るなか、
マエストロが厳しい眼差しで微動だにしない光景を忘れることはない。
真実の音楽のコンサートであった。

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2009,09,23, tiger

乾坤一擲(けんこんいってき)
=運命を懸けてのるかそるかの勝負をすること
by eri-wine | 2009-09-25 03:29 | 音楽